ご相談無料ご相談・お問い合わせ

【例会開催レポート】注目集まる新たな承継手法「サーチファンド」

【例会開催レポート】注目集まる新たな承継手法「サーチファンド」

―― 中小企業の未来を担う“志ある個人”が経営者になる仕組みとは?

2025年6月11日(水)、スモールM&A研究会では第20目の例会をオンライン開催しました。

今回のテーマは、「中小企業の事業承継における新しい手法 ― サーチファンドについて」
講師には中小企業診断士の高瀬直 氏をお招きし、サーチファンドの基本構造から国内での展開状況、さらには支援者が“経営の現場”に入る可能性まで、多面的にお話しいただきました。

本記事では、その講演内容をもとに、私たち研究会の視点も交えながらレポートとしてまとめました。

「後継者がいない」「親族にも従業員にも継がせられない」――そんな中小企業がいま取るべき新たな選択肢の一つとして、ぜひご一読ください。

スモールM&A研究会の月例会
2025年6月11日(水)第20回例会のzoom写真
目次

サーチファンドとは?

サーチファンドとは?

―― 経営を志す個人が企業を引き継ぐ“逆転の事業承継モデル”

サーチファンドとは、将来の起業家・経営者を目指す個人(サーチャー)が、投資家の支援を受けて中小企業を買収し、自ら経営者として参画するという承継モデルです。

この仕組みは、1980年代に米国の名門ビジネススクール(スタンフォード/ハーバード)を起点に広まり、現在では世界中で実績を積み上げているようです。

従来の「親族承継」「社内承継」とは異なり、「第三者に譲るが、譲受人は個人」――というユニークな構造が特徴です。

「黒字廃業が深刻化する日本においても、サーチファンドは有効な承継選択肢の一つ」で、特に地域の雇用や産業を守る視点からは大変意義のある仕組み。

ファンド型M&Aとの違い ― 人に投資するモデル

「サーチファンドは、企業ではなく“人”に投資するモデルです」

そう話す高瀬氏が強調したのは、サーチファンドと一般的なPEファンドとの本質的な違いでした。

スクロールできます
比較項目サーチファンドPEファンド
出資対象経営者候補の個人投資対象の企業
出資フェーズ探索資金 → 買収資金の2段階一括で企業買収
経営の担い手サーチャー自身外部のプロ経営者等を招聘

つまり、買収後の企業価値向上にコミットする“経営者自身”を育て、送り出す装置――それがサーチファンドなのです。

国内で広がる2つのモデル:トラディショナル型とアクセラレーター型

国内では主に以下2つの形態でサーチファンドが展開されています。

スクロールできます
分類トラディショナル型アクセラレーター型
出資者サーチャーが個別に投資家を開拓サーチファンド運営主体が支援・出資
自由度高い(探索先も交渉も自分で行う)支援は厚いが、契約・条件が定型化されがち
主な事例独立系サーチファンドSFJ、JSFP(山口FG系)など

中でも注目されるのが、地域金融機関や自治体が関与するJSFP(Japan Search Fund Platform)
地方都市に根ざした中堅企業の承継に、若い人材を“地域の新しい経営者”として送り込む取り組みは、事業承継と地方創生をつなぐ好事例と言えるでしょう。

政府の政策支援と広がる導入実績

政府の政策支援と広がる導入実績

日本におけるサーチファンドの活用は、ここ数年で着実に広がりを見せています。

  • 2023年:全国で9件のサーチファンド型M&Aが成立
  • 2024年:23件まで増加し、累計32件の企業が新たな経営者に承継

こうした動きを受けて、政府もサーチファンドの可能性に着目。

2024年に策定された「新しい資本主義実行計画」では、「サーチファンドの育成支援」が明記され、公的制度としての整備が進みつつあります。

具体的には、

  • ベンチャーキャピタルや地域金融機関による探索資金・買収資金の出資支援
  • 探索期間中の生活費や報酬をカバーする「探索資金の給与化」
  • サーチャー候補の育成・マッチング体制の構築(地方銀行や支援機関との連携)

など、経営を目指す個人が安心してチャレンジできる環境づくりが進められています。

制度面・資金面の両面から、サーチファンドを“持続可能な承継モデル”として根付かせるための基盤が整いつつあるのです。

支援者が“経営の現場”へ入る可能性

高瀬氏は発表の終盤でこう話しています。

「診断士や士業など、普段は“支援する側”にいる人たちが、“経営のバトンを受け取る側”に立つ時代が来ているのかもしれません」

実際、滋賀県で始まった「人材プール型」の取り組みでは、複数のサーチャー候補を継続的に育成し、地域企業へのマッチングを進めているようです。

これは単なるM&Aではなく、「経営者人材を社会的に育てるインフラ」としての可能性も感じさせるものでした。

【まとめ】中小企業の未来は、志ある“個人”が担うようになる

サーチファンドは、後継者不在の中小企業にとっても、また経営を志す個人にとっても、“経営のバトン”をつなぐ新しい橋渡しの形です。

  • 地域密着の優良企業を未来につなぐ
  • 若手やUターン希望者に経営者としての舞台を提供する
  • 士業・支援者が「実務家」から「実践者」へとステージを進める

こうした多層的な意義を持つ仕組みとして、今後ますます広がりを見せていくでしょう。

私たちスモールM&A研究会でも、こうした新しい承継・M&Aのかたちに注目し、学びと実践の場を継続的に提供していきます。

特に近年では、「支援する側」から「経営に踏み出す側」へと視野を広げる士業・専門家の存在が求められつつあります。

事業承継やM&A支援に関心をお持ちで一緒に知見を深めていきたい士業の方、ぜひ私たちの活動にご参加ください。
共に学び、スキルを磨きながら、中小企業の未来を支える仲間として歩んでいければ幸いです。

✒ 登壇者プロフィール

中小企業診断士 高瀬 直 (Sunao Takase)
合同会社C&M 代表社員

中小企業診断士の高瀬直 氏

商社で25年、自動車部品メーカーで6年にわたり、経理・財務、経営企画、M&A、組織再編といった多様な業務を経験。国内外の買収・売却案件にも携わり、現場感のある実行支援を強みとしています。
2022年9月に合同会社C&Mを設立。M&Aや事業承継のサポートを中心に、経営改善や事業再生、新事業・新製品開発に至るまで多面的なコンサルティングを行っています。
商社で培ったグローバルな視点と、製造業で磨いた“現場をわかる感覚”を活かし、経営者様に寄り添いながら、次の一手を一緒に考えます。

✒ 執筆・編集:田中 寛也(中小企業診断士)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次
閉じる